インドの洗練/西洋の洗練
アヌシュカー・シャンカルとカーシュ・カーレイという、インド伝統楽器を操るふたりの若いアーティストのコラボレーション作品です。
アヌシュカー・シャンカルは、シタールの巨匠・ラヴィ・シャンカルの娘です。
父のシタール奏法を体系的に習得した正当な伝承者と認められている彼女は、伝統的なインド音楽のシタール奏者としても活躍していますが、自身のアルバムではクラブミュージック系の要素も取り入れるなど、ジャンルに拘らない柔軟な音楽活動をしています。
カーシュ・カーレイは英国生まれ、米国育ちのインド系アーティスト。
自らのルーツであるインドの伝統楽器、タブラの名手であると同時に、生まれ育った英米の音楽シーンにも身を置き、ドラム,プログラミング,DJ,シンガーソングライター,プロデューサーと、各分野で才能を発揮しているアーティスト。
クラブ系あり、バラードあり、インド系ポップスを思わせるものもあれば、クラシカルなものもあり……と、いろんな要素が交差していて、盛り沢山なアルバムなのですが、ごちゃ混ぜではなく、すっきりまとまっています。
ポップさ加減も丁度良く、すんなり耳におさまる心地よさがあります。
ただ、なんだか不思議なのですが、インドっぽさがあまり感じられないのですね。
二人ともにインド系で、インド伝統楽器の使い手ですし、曲中にもシタール、タブラなどのインドの楽器がふんだんに使われているのに。
例えば、ラーガを提示するシタールのイントロから始まり、次いでタブラが導入され、バックにインドの映画音楽の雛形のようなユニゾンのストリングの音が流れ、ガマック(インド独特の歌唱法)を効かせた歌が始まって……というインド音楽特有のスタイルをとっていても、何故かインドの薫りが薄いのです。
クラブ系やバラード寄りの楽曲では、勿論その傾向はもっと強くなります。多分、非インド系のミュージシャンがシタールの音を取り入れたケースの方が、より濃厚なインドテイストが出るのではないでしょうか。
この不思議な傾向は、逆説的になりますが、おそらく二人がインド系で、それぞれの楽器のエキスパートであるためだと思います。
非インド系のミュージシャンがインド伝統楽器の音を取り入れるとき、そこには「オリエンタルなエッセンス付け」といった理由があるのですが、彼らにとってはシタールもタブラも普通の楽器なので、それを使うのに他意を必要としないのではないかと。
そして、二人ともポピュラーやクラブ・ミュージックにも通じていて、このアルバムではそちら方面の洗練された音を追及しているように思います。
インド音楽は長い歴史の中で高度に洗練された音楽ですが、ポピュラーやクラブ・ミュージックとは洗練の方向性が違います。私の独断ですが、雑味を含めつつ、滑らかな味わいがあるのがインド音楽に対し、彼らが目指したのは雑味のない、クリアーなスープのような洗練だったのではないかな。と感じました。
そういう意味では彼らの音楽の美しさが良く出ているアルバムだと思います。
そんな中、父ラヴィ・シャンカルとアヌシュカーが共演した11曲、12曲目の『Oceanic, Part1/2』(Part1はラヴィのソロ)は、インドの洗練と西洋の洗練が絶妙に混ざり合った仕上がりで、このアルバムの良いアクセントになっています。
包容力のある、あたたかい音楽です。
ほかにも、スティングのヴォーカルをフィーチャーした作品『Sea Dreamer』やアヌシュカーのシタールと異母姉のノラ・ジョーンズのピアノ+ヴォーカルが共演した『Easy』など、聴きどころの多いアルバムです。
聴く前の勝手な想像とのギャップで、初めの頃こそ少し違和感を覚えましたが、聴きなれるとなかなか面白く、気持ちのいいアルバムです。
外れの曲がないのも良いです。
Breathing Under Water / Anoushka Shankar & Karsh Kale
(amazon.co.jp 試聴できます)
Anoushka Shankar Online
※アヌーシュカ・シャンカルの公式サイト
Broken english - Karsh Kale Official Site
※カーシュ・カーレイの公式サイト
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